経審の点数を上げる5つの実務 ― 完成工事高1〜5億の工務店が、来期に向けて今すぐ着手すべきこと
公共工事の入札ランクは、経審の総合評定値(P点)によって決まります。大手と同じ土俵で戦うのではなく、零細規模の工務店だからこそ取りに行ける「確実に伸びる加点項目」を、優先順位とともにご紹介します。
1.まず経審点数の構造をざっくり押さえる
経審の総合評定値(P点)は、5つの評価項目を加重平均して算出されます。零細工務店の方針を決める前に、それぞれの「ウエイト」と「自社で動かせる余地」を整理しておきます。
| 評価項目 | 内容 | ウエイト | 零細工務店での余地 |
|---|---|---|---|
| X1 | 完成工事高(業種別の年間平均) | 0.25 | 短期で動かしにくい |
| X2 | 自己資本額・利払前税引前償却前利益 | 0.15 | 決算政策で動く |
| Y | 経営状況(8つの財務指標) | 0.20 | ★着手しやすい |
| Z | 技術力(技術職員数 + 元請完成工事高) | 0.25 | 計画的に伸ばせる |
| W | 社会性等(労働福祉・防災・経理・CCUS他) | 0.15 | ★★最も伸ばしやすい |
完成工事高1〜5億円の規模では、X1(完成工事高)で大手と競うのは現実的ではありません。一方、W点(社会性等)とY点(経営状況)は、制度を正しく使えば数十点単位で伸びる領域です。本記事では、この「動かせる余地が大きい順」に5つの実務を整理します。
2.実務① W点 ― 法定外労災・退職金共済・社会保険の整備
雇用保険・健康保険・厚生年金の3つの加入で各 +6点(計18点)。建退共加入 +15点。法定外労災加入 +15点。退職一時金または企業年金 +15点。合計で W 評点 +60点前後を狙えます。
W点の中で最初に着手すべきは、「労働福祉の状況」です。具体的には次の通り。
- 雇用保険・健康保険・厚生年金保険への加入 ― 法人であれば原則加入義務がありますが、未加入のままになっている場合は今すぐ整備します。建設業許可の要件としても必須です。
- 建設業退職金共済(建退共)への加入 ― 中小企業退職金共済機構の制度。月々の掛金は事業主負担ですが、加点インパクトが大きい項目です。
- 法定外労災(任意労災)への加入 ― 一人親方も対象に含めた業務災害補償保険を契約します。元請工事を取りに行くなら必須レベル。
- 退職一時金制度または企業年金制度 ― 中小企業退職金共済(中退共)、特定退職金共済、確定拠出年金(企業型DC・iDeCo+)など、いずれか1つでも整備すれば加点対象。
取り組み難易度は低いのに加点が大きいため、まずここから着手するのが定石です。社労士と連携して、社会保険の加入状況と退職金制度を半年程度で整備しましょう。
3.実務② W点 ― 建設業経理士2級の登録経理試験合格者を1名確保する
建設業経理士1級保有者 1名で W 評点 +10点。2級保有者でも +4点〜。完成工事高1〜5億円規模なら、2級保有者1〜2名の確保で十分に効きます。
W点の「建設業の経理の状況」では、登録経理試験(建設業経理士)合格者と登録経理講習受講者の人数で加点されます。零細工務店では「経理担当者本人または事務員1名に2級を取得してもらう」のが最も現実的な打ち手です。
- 受験対策 ― 一般財団法人建設業振興基金が実施する試験で、年2回(9月・3月)実施。2級は簿記の基本があれば3〜6ヶ月で合格レベルに到達します。
- 合格後の手続き ― 合格証明書を経審申請時に添付。なお、加点を受けるには合格者がその年度内に「登録経理講習」を受講していることが必要(平成30年改正以降)です。
- 注意点 ― 建設業経理「事務士」と建設業経理「士」は別物。経審加点対象は「士」(1級・2級)であり、3級・4級や旧資格は対象外なので要確認です。
4.実務③ W点 ― CCUS(建設キャリアアップシステム)への事業者登録・技能者登録
令和3年改正後、CCUS活用状況は W 評点の独立評価項目に。事業者登録 +最大15点(レベル別技能者の在籍数等で加減)。公共工事入札の総合評価方式でもCCUS活用が加点される自治体が増えています。
建設キャリアアップシステム(CCUS)は、技能者の就業履歴・保有資格をICカードで蓄積する国の制度です。経審においては「CCUS活用状況」として独立した加点項目になっています。
- 事業者登録 ― 建設業許可業者であれば登録可能。零細工務店でも年間利用料は売上規模に応じた階層制で、初年度の負担はそれほど大きくありません。
- 技能者登録 ― 自社の職人(社員・常用)を技能者として登録し、現場入場時にカードリーダーで就業履歴を蓄積。レベル1〜4のキャリア評価が経審の加点にも反映されます。
- 元請工事での運用 ― 自社が元請になる現場でカードリーダーを設置・運用すると、現場運営力の加点も狙えます。
CCUSは「これからの公共工事の前提」になりつつあります。経審の加点だけでなく、千葉県や松戸市の公共工事入札に向けた営業面でも、登録の有無は確実に問われ始めています。
5.実務④ Y点 ― 経営状況分析(8指標)を意識した決算政策
Y評点はP点全体の20%を占める重要項目。ウエイトが大きいため、決算政策を1年かけて整えるとP点ベースで数十点〜100点単位で動くケースもあります。
Y点(経営状況)は、登録経営状況分析機関に提出した決算書から、以下の8つの指標で評価されます。
- 純支払利息比率 ― 売上に対する利息の比率(低いほどよい)
- 負債回転期間 ― 月商の何ヶ月分の負債を抱えているか
- 総資本売上総利益率 ― 総資産に対する粗利の比率
- 売上高経常利益率 ― 売上に対する経常利益の比率
- 自己資本対固定資産比率 ― 自己資本で固定資産をどれだけカバーしているか
- 自己資本比率 ― 総資本に占める自己資本の比率
- 営業キャッシュ・フロー(絶対額)
- 利益剰余金(絶対額)
零細工務店で打てる手の代表例:
- 役員報酬の最適化 ― 過大な役員報酬は経常利益・自己資本比率を下げる。家族構成と社会保険料込みで再設計。
- 短期借入から長期借入への借換え ― 負債回転期間と支払利息の指標を改善。
- 遊休資産の整理 ― 売却可能な不動産・車両等で総資本を圧縮し、各種比率を改善。
- 役員借入金の処理 ― 役員からの借入金を資本性借入(劣後ローン的扱い)として明示すると、自己資本比率の改善に効くケースあり。
これは1決算期では完結しない領域です。顧問税理士と「経審のY点を伸ばす決算政策」を3年計画で組み立てるのが現実的です。
6.実務⑤ Z点 ― 技術職員の資格取得と監理技術者講習
1級施工管理技士(監理技術者講習受講者) 1名で +6点、1級のみ +5点、2級 +2点、その他資格 +1点。技術職員5〜10名規模であれば、計画的な資格取得で Z 評点を50〜100点単位で伸ばせます。
Z点(技術力)はP点全体の25%を占める大柱です。零細工務店では人数で大手に勝てない以上、「在籍する職人1人あたりの保有資格を増やす」方針が王道になります。
- 1級・2級施工管理技士の計画的取得 ― 受験資格(実務経験年数)を満たす社員を毎年1〜2名ずつ受験させる仕組みを作る。受験料・講習費・合格祝い金を就業規則に組み込むと社員のモチベーションも上がります。
- 監理技術者講習の受講 ― 1級保有者は、5年に1回の監理技術者講習を受講していることが加点要件。受講漏れは即減点になるため、社内で受講管理表を作るのが必須です。
- その他資格 ― 主任技術者となれる国家資格(2級建築士、宅地建物取引士、登録基幹技能者等)も加点対象。職人さんが持っている既存資格の棚卸しから始めましょう。
7.取り組む順番 ― 1年で動かせる順
すべて同時には進められません。「加点インパクト × 着手難易度」で並べると、零細工務店の取り組み順は次のようになります。
| 優先度 | 実務 | 所要期間 | パートナー |
|---|---|---|---|
| ★★★ | ①社会保険・退職金・法定外労災の整備 | 3〜6ヶ月 | 社労士・行政書士 |
| ★★★ | ③CCUS事業者登録・技能者登録 | 2〜3ヶ月 | 行政書士 |
| ★★ | ②建設業経理士2級の取得 | 6〜12ヶ月 | 本人 + 講習会 |
| ★★ | ⑤技士の受験計画・監理技術者講習管理 | 年次計画 | 社内体制 |
| ★ | ④Y点改善(決算政策) | 2〜3年計画 | 税理士・行政書士 |
完成工事高1〜5億円の規模では、①と③だけでも来期のP点を50〜80点ほど押し上げることが現実的に見込めます。これは公共工事入札のランク1段上昇に相当する規模感です。
8.よくある落とし穴 3つ
① 「登録経理講習」を受けていない ― 建設業経理士の資格を持っていても、その年度内に登録経理講習を受講していないと加点されません。受講管理が漏れがちです。
② 監理技術者講習の更新漏れ ― 5年ごとの更新が必要。複数名の技士を抱えると管理が複雑になり、知らないうちに失効しているケースが頻発します。
③ 経営状況分析と経審の申請タイミング ― 経営状況分析を受けてから経審申請までの順序を間違えると、決算期の翌年度に申請がずれ込み、ランクの空白期間が発生します。年次スケジュールを最初に組むのが肝心です。
9.次回予告(経審シリーズ #02)
次回は、本記事の実務④「Y点を伸ばす決算政策」を、千葉県の松戸市・近郊エリアで支援している零細工務店の具体例を交えて深掘りします。
- 役員報酬の決め方が Y 評点に与える影響
- 役員借入金の処理パターン別シミュレーション
- 経営状況分析機関の選び方(BCA、BIS、ワイ・シーシー他)
- 分析申請から経審申請までのスケジューリング実務
10.当事務所のご支援内容
行政書士紺野貴裕事務所では、千葉県松戸市・市川市・船橋市・柏市・流山市を中心に、完成工事高1〜5億円規模の工務店経営者さま向けに、以下のご支援を承っております。
- 経審点数シミュレーション ― 現状P点と、各実務に着手した場合の伸び幅を試算します。
- 年次スケジュール設計 ― 決算期・経営状況分析・経審申請・許可更新の年次スケジュールを統合して設計。
- 申請書類の作成・確認申請手続き ― 経審の確認申請、関連書類の一括作成。
- CCUS事業者登録・技能者登録代行
- 社労士・税理士との連携 ― 顧問社労士・税理士と連携して、横断的に点数を伸ばします。
無料の経審点数シミュレーション(直近2期の経審結果通知書をご準備ください)を実施しております。来期の入札に向けて、何にいくら投じれば何点伸びるか ― この見通しを持って動けるかどうかが、ランク上昇の分岐点になります。
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行政書士紺野貴裕事務所
代表 行政書士 紺野 貴裕
所属会・登録番号:千葉県行政書士会 第96113376号
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‣本ページの内容は、経営事項審査(経審)の一般的な評価項目と実務上の打ち手を、完成工事高1〜5億円規模の建設業者を想定して整理したものです。実際の点数効果は業種・地域・自社の現状により異なります。具体的な点数シミュレーションは、直近の経審結果通知書・財務諸表・技術職員名簿等を確認のうえ個別に行います。制度は逐次改正されるため、申請時点の最新情報を当事務所でご確認ください。


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