2026年度(令和8年度)4月、「こども誰でも通園制度」が全国の市町村で本格実施されました。2025年度までの試行的・任意の位置づけから、子ども・子育て支援法上の「給付」へと格上げされ、すべての市町村が実施主体となる制度へと変わっています。
幼稚園・認定こども園にとって、この制度は単なる新規事業のひとつではありません。これまで制度上ほとんど接点を持てなかった0歳6か月~満3歳未満の未就園児とその家庭に、公的な枠組みのなかで日常的に関わることができるようになる、という構造的な変化を意味します。
本稿では、制度の全体像を整理したうえで、参入を検討する幼稚園・認定こども園が実際に直面する手続きと論点を、実務目線で解説します。
2026年度に何が変わったのか
制度は段階を踏んで組み立てられてきました。
| 年度 | 位置づけ |
|---|---|
| 2023~2024年度 | 試行的事業(モデル事業)として一部自治体で実施 |
| 2025年度(令和7年度) | 児童福祉法上の「乳児等通園支援事業」として法定化(令和7年4月1日施行)。子ども・子育て支援法上は地域子ども・子育て支援事業として実施 |
| 2026年度(令和8年度) | 子ども・子育て支援法上の「乳児等のための支援給付」として位置づけられ(令和8年4月1日施行)、全市町村での実施が必須に |
ポイントは、事業から給付へという転換です。給付になったことで、市町村には実施義務が生じ、利用者には制度を利用する権利性が認められ、事業者には給付費(公定価格)が支払われる仕組みが整いました。財源は子ども・子育て支援金が充てられます。
裏を返せば、事業者側にも認可事業者としての責任が生じます。ここが2025年度までとの最も大きな違いです。
制度の基本スペック
国が示す基本的な枠組みは次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象年齢 | 0歳6か月~満3歳未満(3歳の誕生日の前々日まで) |
| 対象要件 | 保育所等に通っていない未就園児。就労要件は問わない |
| 除外 | 教育・保育給付を受けている児童、企業主導型保育施設の利用児(認可外保育施設の利用児は対象) |
| 利用上限 | 月10時間(国の給付上限) |
| 利用単位 | 最低1時間、以降30分刻み |
| 利用者負担 | 1時間あたり300円程度を標準(事業者が設定。実費徴収は別途可) |
| 実施施設 | 保育所、認定こども園、幼稚園、小規模保育事業所、事業所内保育事業所、家庭的保育事業所、地域子育て支援拠点、認可外保育施設、児童発達支援センター等 |
なお、月10時間という上限については、2026・2027年度の2年間は経過措置が設けられており、市町村が条例で3時間~10時間未満の範囲で利用可能時間を設定することが認められています(保育人材の確保等に課題を抱える自治体への配慮措置)。自治体ごとに上限が異なるため、必ず所在市町村の設定を確認してください。
利用者負担についても、自治体・事業者によって幅があります。たとえば千葉市では、一般世帯が1時間300円、市民税所得割額77,101円未満の世帯が100円、生活保護世帯は無料という所得に応じた階層設定がとられています(給食費等の実費は別途)。
幼稚園・認定こども園にとっての戦略的な意味
制度解説の多くは保育所目線で書かれていますが、幼稚園・認定こども園にとっての意義は少し性格が違います。
満3歳未満児との接点が生まれる
幼稚園の受入れは原則として満3歳からであり、それ以前の家庭とは未就園児親子教室などの任意事業を通じてしか関わることができませんでした。本制度は、公的給付として費用が手当てされる形で、0歳6か月からの継続的な関わりを可能にします。定期利用を選んだ家庭であれば、月に複数回、園の保育を体験してもらえることになります。
入園につながる導線になり得る
制度の趣旨は「こどもの育ちの応援」と「子育て家庭への支援」であり、園児募集を目的とするものではありません。しかし結果として、園の教育方針や職員の関わりを実際に体験した家庭が、満3歳児入園・3歳児入園の際に自園を選択する可能性は高まります。未就園児が減少局面にあるなかで、この点を無視することはできないでしょう。
地域の子育て支援拠点としての位置づけ
制度では、要支援家庭のこどもの優先的な受入れや、保護者支援面談といった仕組みも組み込まれています。地域における園の役割を、教育機関から一歩広げるきっかけになり得ます。
一方で、一時預かり事業(在園児以外を対象とする一般型)や預かり保育との整理は必ず必要です。対象児童・給付の根拠・請求ルートが異なるため、既存事業との重複や職員配置の按分をどう扱うか、あらかじめ市町村と詰めておくべき論点です。
参入するには ― 「認可」と「確認」の二段構え
ここが実務上の最大の山場です。給付制度である以上、手続きは2段階になります。
ステップ1|児童福祉法上の認可(乳児等通園支援事業)
市町村が認可権者です。幼稚園であっても、この事業を行う以上は児童福祉法上の乳児等通園支援事業としての認可が必要になります。一般的な流れは次のとおりです。
- 市町村への事前相談・事前協議
- 認可申請書、事業計画書(一般型/余裕活用型の別)、誓約書兼役員名簿、設備関係書類等の提出
- 市町村による書類審査・現地確認
- 児童福祉審議会(児童福祉専門分科会)等への意見聴取
- 認可
ステップ2|子ども・子育て支援法上の確認
認可を受けたうえで、給付対象施設としての確認を市町村から受けます。この際に利用定員を設定し、地方版子ども・子育て会議等への意見聴取が行われます。
スケジュール感に注意
募集の時期と締切は自治体が設定します。たとえば千葉市では、令和8年10月事業開始分の事業者募集について、事前協議の受付を令和8年5月11日~7月6日、認可申請書の提出を5月11日~7月13日としています。つまり、事業開始のおよそ3か月前には申請を締め切る運用です。4月開始分について前年12月頃を提出期限とする自治体もあります。
審議会の開催時期にも手続きが縛られるため、思い立ってから数か月では間に合いません。参入を検討するのであれば、募集要項が公表される前の段階で市町村の担当課に相談を入れておくのが現実的です。
また、学校法人が実施する場合、寄附行為に定める事業目的の範囲に本事業が含まれるかの確認が必要になるケースがあります。含まれない場合は寄附行為変更の認可手続きが別途生じ、こちらも所轄庁の審査に時間を要します。早めに所轄庁へ確認しておくことをおすすめします。
事業類型の選択 ― 一般型か、余裕活用型か
余裕活用型
既存の利用定員に空きがある場合に、その枠を活用して受け入れる類型です。現行の職員配置基準の範囲内で対応でき、新たな増員を前提としないため、参入のハードルは相対的に低くなります。ただし、利用定員を超えない範囲でしか受け入れられないため、空き状況に左右されます。
一般型
専用の受入れ枠を設ける類型で、次の3つの形態があります。
- 在園児と合同で実施
- 専用室を設けて独立実施
- 独立した施設で実施
職員配置は、乳児おおむね3人につき1人以上、満1歳以上満3歳未満の幼児はおおむね6人につき1人以上。加えて、従事者の半数以上が保育士であること、事業所ごとに最低2人以上の配置が原則です。設備基準は次のとおりです。
| 区分 | 面積基準 |
|---|---|
| 乳児室 | 乳児または満2歳未満の幼児1人につき 1.65㎡以上 |
| ほふく室 | 乳児または満2歳未満の幼児1人につき 3.3㎡以上 |
| 支援室・遊戯室 | 満2歳以上の幼児1人につき 1.98㎡以上 |
余裕活用型については、実施する既存施設(保育所・認定こども園等)の基準に準拠する扱いとなり、独自の基準は設けられていません。
幼稚園の場合、保育士資格保有者の確保が実務上のボトルネックになりやすい点に注意が必要です。幼稚園教諭免許のみの職員では「保育士」の要件を満たさないため、体制を組む前に有資格者の在籍状況を棚卸ししておく必要があります。
公定価格と収支の考え方
2026年度の給付単価は、国の告示で定められています。目安となる水準は次のとおりです(地域区分等により変動します)。
| 区分 | 単価 |
|---|---|
| 基本単価(0歳児) | 1時間あたり 1,700円 |
| 基本単価(1・2歳児) | 1時間あたり 1,400円 |
| 障害児加算 | 1時間あたり 600円 |
| 要支援家庭児童加算 | 1時間あたり 600円 |
| 医療的ケア児加算 | 1時間あたり 2,500円 |
| 初回対応加算(事前・事後面談) | 1回あたり 0歳児1,700円/1・2歳児1,400円 |
| 保護者支援面談加算 | 1回あたり 1,400円 |
| 賃借料加算 | 1時間あたり 200円 |
| 特別地域加算 | 1時間あたり 300円 |
これに利用者負担(1時間300円程度)が加わります。単価そのものは決して低くありませんが、利用が時間単位・不定期であるため、稼働率が収支を大きく左右する構造です。特に一般型で専任職員を配置する場合、予約が埋まらなければ人件費だけが先行します。
参入の判断にあたっては、想定利用時間数を保守的に置いたシミュレーションを、余裕活用型・一般型それぞれで作成して比較することをおすすめします。
見落とされがちな実務論点
総合支援システム(つうえんポータル)への対応
利用者の登録、面談申込、予約管理、利用実績の記録、請求までを国のシステム上で行います。職員が操作に習熟するまでの時間を見込み、開始前の研修を計画に組み込んでください。代理予約機能や広域利用への対応も追加されています。
広域利用
市町村域を越えた利用が想定されており、他自治体在住児の受入れが生じます。事務処理の流れを所在市町村に確認しておきましょう。
こども性暴力防止法(日本版DBS)への対応
2026年12月25日に施行されます。本制度の実施施設も、こどもと接する業務に従事する者の犯罪事実確認等への対応が論点となります。制度参入の準備と並行して、採用・労務管理の見直しを進める必要があります。
保護者対応と記録の負担
定期的に通う在園児と異なり、月に数時間だけ来園するこどもの状況把握・情報共有には別種の難しさがあります。アレルギー・既往歴等の事前把握、当日の様子のフィードバック方法を、様式レベルで標準化しておくと現場の負担が下がります。
参入を検討する園のためのチェックリスト
- 所在市町村の実施方針・上限時間・スケジュールを確認したか
- 事業類型(一般型/余裕活用型)の方向性を仮決めしたか
- 保育士資格保有者の在籍状況を棚卸ししたか
- 使用予定の保育室の面積基準を満たすか確認したか
- 既存の一時預かり事業・預かり保育との整理を行ったか
- 学校法人の寄附行為の事業目的に本事業が含まれるか確認したか
- 想定稼働率に基づく収支シミュレーションを作成したか
- 市町村への事前相談の時期を逆算して押さえたか
まとめ
こども誰でも通園制度は、2026年度から給付として本格実施され、幼稚園・認定こども園にとっては未就園児家庭との接点を制度的に持てる新たな選択肢となりました。一方で、参入には児童福祉法上の認可と子ども・子育て支援法上の確認という二段階の手続きが必要で、審議会の日程に規定されるため、準備には相応のリードタイムを要します。
具体的な運用(上限時間、利用者負担、申請様式、スケジュール)は市町村ごとに異なります。参入を検討される際は、必ず所在市町村の担当課にご確認ください。
乳児等通園支援事業の認可申請について、ご相談を承ります
行政書士紺野貴裕事務所では、幼稚園設置認可・認定こども園の認定および確認申請をはじめとする、幼児教育・保育分野の許認可手続きを取り扱っております。こども誰でも通園制度(乳児等通園支援事業)の認可申請、寄附行為変更認可、市町村との事前協議のサポートについてもご相談を承ります。
「自園で実施できるのか」「どの類型が合うのか」といった段階のご相談でも構いません。まずはお気軽にお問い合わせください。
参考・出典
- こども誰でも通園制度について|こども家庭庁
- こども誰でも通園制度の実施に関する手引(令和8年3月改訂版)|こども家庭庁
- 乳児等通園支援事業の設備及び運営に関する基準案について(概要)|こども家庭庁成育局保育政策課
- 令和8年度以降の利用可能時間について(本格実施に向けた検討会 第2回 資料4)|こども家庭庁
- 乳児等のための支援給付に係る公定価格(令和8年こども家庭庁告示第8号)|こども家庭庁
- 千葉市乳児等通園支援事業の設備及び運営に関する基準|千葉市
- 令和8年10月事業開始 乳児等通園支援事業(こども誰でも通園制度)の事業者募集について|千葉市
- 令和8年度乳児等通園支援事業(こども誰でも通園制度)について|千葉市
※本記事は2026年8月時点の情報に基づいて作成しています。制度の詳細は変更される可能性があります。実際の申請にあたっては、所在市町村の最新の案内をご確認ください。


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