のしいか所長「人的資本経営」という言葉を、金融機関の担当者や取引先から聞くことが増えていませんか。



上場企業がやる話だろう。うちみたいな会社には関係ないと思っているんだが・・



開示が義務づけられているのは確かに上場企業だけです。ただ考え方そのものは、採用・定着・事業承継の話に置き換えられます。2026年3月に国の指針が改訂されましたので、この機会に整理します。
人材を「資源」ではなく「資本」として見る
人的資本経営とは、人材を「使えば減るコスト」ではなく「投じれば伸びる資本」として捉え、その価値を引き出すことで中長期的な企業価値の向上につなげる経営の考え方です。
レポートが示す方向性を、対照で並べると次のようになります。
| 観点 | これまで | これから |
|---|---|---|
| 人材の位置づけ | 管理すべき資源・コスト | 活用し成長させる資本・投資 |
| 誰の課題か | 人事部門の課題 | 経営そのものの課題 |
| 出発点 | 制度の運用と改善 | 経営戦略から落とし込む人材戦略 |
| 個と組織の関係 | 囲い込み | 選び、選ばれる関係 |
2026年3月、開示の指針が改訂されました
2026年3月23日、内閣官房・金融庁・経済産業省が「人的資本可視化指針(改訂版)」を公表しました。2022年の初版から約4年ぶりの改訂です。
ここまでの流れを整理します。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2020年9月 | 人材版伊藤レポート(経済産業省)。人材を資本と捉える発想転換を提示 |
| 2022年5月 | 人材版伊藤レポート2.0(経済産業省)。実践のためのアイデアを整理 |
| 2022年8月 | 人的資本可視化指針(内閣官房)/人的資本経営コンソーシアム設立 |
| 2023年1月 | 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正(金融庁)。上場企業の有価証券報告書に、人材育成方針・社内環境整備方針、女性管理職比率、男性育児休業取得率、男女間賃金差異の記載を求める |
| 2024年8月 | ジョブ型人事指針(内閣官房・経済産業省・厚生労働省) |
| 2026年3月 | 人的資本可視化指針(改訂版)(内閣官房・金融庁・経済産業省) |
| 2026年4月 | 人的資本経営コンソーシアムが一般社団法人化 |
投資家は、設備よりも「人」を見ています
生命保険協会が機関投資家に対して行った調査(2024年度版・2025年4月公表)では、中長期的な投資戦略で重視すべき項目として、人材投資が63%で最多でした。IT投資と研究開発投資がいずれも52%で続いています。
さらに同じ調査で、投資家が企業に求める人的資本経営の取組として最も多く挙がったのが「経営戦略と人材戦略を連動させる取組」で81%でした。制度を整えることではなく、経営と人がつながっているかが見られているということです。



これは上場企業に限った話ではありません。中小企業でも、金融機関が事業性評価をするとき、後継者や中核人材の有無は必ず見られます。見る人が投資家か銀行かの違いだけです。
枠組み ― 3つの視点と5つの共通要素
人材版伊藤レポートが示した枠組みが「3P・5Fモデル」です。自社の現状を点検するレンズとして使えます。
3つの視点(経営を俯瞰する軸)
- 経営戦略と人材戦略の連動
- あるべき姿と現状のギャップの定量把握
- 人材戦略の実行を通じた企業文化への定着
5つの共通要素(施策の内容)
- 動的な人材ポートフォリオ
- 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
- リスキル・学び直し
- 社員エンゲージメント
- 時間や場所にとらわれない働き方
経営戦略と人材戦略の連動に関する責任者を明確にすることが、両戦略を連動させるための第一歩となる
(人材版伊藤レポート2.0)
中小企業の言葉に置き換える
情報開示の義務は上場企業の話です。非上場の会社にとっては、この考え方を「採用・定着・承継」という日々の言葉に翻訳したほうが役に立ちます。
| 大企業の文脈 | 中小企業では | 具体的にやること |
|---|---|---|
| 投資家への開示 | 採用市場・金融機関・取引先への発信 | 求人票、ホームページ、経営計画書に人材方針を書く |
| CHROの設置 | 社長と右腕が「人」を経営課題として語る | 経営会議に人材の議題を常設する |
| あるべき姿とのギャップ | 数年後に必要な人材と、いまの顔ぶれの差 | 簡易なスキルマップと人員計画をつくる |
| リスキル・学び直し | 多能工化と後継者育成 | 教育投資を制度にする。助成金を使う |
| エンゲージメント | 定着率の向上、離職の防止 | 簡易なアンケート、1on1、処遇の見直し |
建設業は、すでに始めています
建設業の皆様には、あらためて申し上げるまでもないかもしれません。建設キャリアアップシステムに蓄積される就業履歴と保有資格は、人材の見える化そのものです。経営事項審査で技術者・技能者が評価されるのも、人への投資が点数になる仕組みにほかなりません。
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今日から着手したい5つのこと
- 経営会議に「人」の議題を常設し、社長と右腕で毎回話す
- 3年後に必要な人員と資格を書き出し、いまの顔ぶれと突き合わせる
- 求人票とホームページに、育成の方針を自分の言葉で書く
- 教育や資格取得の費用を、その都度の判断ではなく制度にする
- 辞めた方に理由を聞き、記録として残す



人材の確保がこれほど難しくなった以上、人の話を経営の外に置いたままにはできません。東葛エリアの皆様にも、いずれ避けて通れない話だと思います。



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参考
最終更新日:2026年8月26日
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