のしいか所長10月1日から、カスタマーハラスメント対策が事業主の義務になりました。幼稚園・認定こども園の理事長様からのご相談で、いちばん多いのがこれです。



やらなければいけないのは分かるのですが、どの手引を見ればよいのでしょうか。国のものを探しても、園のことが書かれていなくて。



探し方が悪いのではありません。本当に、どこにも書かれていないのです。幼稚園も認定こども園も、いまある手引のどれにも名指しされていません。まず、そこを確かめるところから始めます。
確かめた結果——4つとも、ありませんでした
令和8年10月27日の時点で、当事務所が確かめた範囲です。
| 探した先 | 結果 |
|---|---|
| 厚生労働省の業種別マニュアル | 7分野あります(宅配業・スーパー・飲食・学校・介護・障害福祉・地方公共団体)。幼稚園・こども園・保育所は、ありません |
| 文部科学省のガイドライン (令和8年8月) | 「学校」向けに出ています。ただし適用対象の学校種を書いた文がなく、幼稚園・幼保連携型認定こども園・保育所の名前は出てきません |
| 同ガイドラインの保護者向けリーフレット | 「保護者・地域住民の皆様へ」。こちらにも幼稚園・こども園の名はありません |
| こども家庭庁のガイドライン | まだ出ていません。令和8年度中に作成予定です(研修資材・周知啓発資材とあわせて3点) |
法律は1本なのに、手引だけが宙に浮いています。改正労働施策総合推進法は10月1日に施行され、園も当然に事業主です。義務は始まっているのに、読むべきものが名指しされていない——これが、いまの状態です。
では、どれを使うか
当事務所は、文部科学省のガイドラインを使うことをお勧めしています。理由は3つです。
- 幼稚園は、学校教育法第1条の「学校」です。ガイドラインは学校種を限定する文を置いていませんので、外れる理由もありません
- 「学校設置者」の定義に、学校法人が明記されています。私立学校は対象に入っています
- 土台が同じです。このガイドラインは、改正労働施策総合推進法とカスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)にもとづいて作られています
園の種類で、見る先が変わります
| 園の種類 | 法的な位置づけ | 当面、使えるもの |
|---|---|---|
| 幼稚園 (施設型給付・私学助成とも) | 学校教育法第1条の学校 | 文部科学省のガイドライン |
| 幼保連携型認定こども園 | 学校であり、児童福祉施設でもあります | 文部科学省のガイドライン +こども家庭庁のもの(出たら) |
| 幼稚園型認定こども園 | 幼稚園が土台です | 文部科学省のガイドライン |
| 保育所型・地方裁量型 | 保育所が土台です | こども家庭庁の事務連絡(令和8年3月25日) |
幼保連携型が、いちばん据わりが悪いところです。学校でもあり児童福祉施設でもあるため、両方にかかります。いまは文部科学省のもので組み立てておき、こども家庭庁のものが出たら足りない分を足す——この順番が現実的です。


園には、もう一つの義務があります
ここが、ほかの業種と決定的に違うところです。施設型給付を受ける園には、苦情を受け止める義務があります。
運営基準の「苦情処理」です。苦情を受け付ける窓口を設け、必要な措置を講じること。市町村が行う指導監督などに協力し、改善や報告を行うこと。苦情の記録は、完結の日から5年間の保存が求められます。
しかも、公定価格の管理費には「苦情解決費」が積まれています。施設ごとに算定される費用のひとつです。苦情に向き合うことは、給付費の前提に組み込まれている——そう考えたほうが実態に近いと思います。



つまり、園は二つの向きを同時に求められています。保護者の声は受け止める。けれども、職員は守る。この二つは矛盾しません。矛盾させないために、線を引く必要があるだけです。
線はどこか——「苦情」と「それを超えたもの」
文部科学省のガイドラインは、「社会通念上許容される範囲を超えた言動」を定義しています。判断は総合的に行い、「平均的な労働者の感じ方」を基準にするとされています。対面だけでなく、電話もSNSも対象です。
そのうえで、ガイドラインは典型例を9つ挙げています(限定列挙ではありません)。園に置き換えると、次のようになります。
| ガイドラインの類型 | 園で起きる形 | |
|---|---|---|
| a | 理由がない要求、教育活動と全く関係のない要求 | 職員の私生活に立ち入る要求、性的な要求 |
| b | 園の範囲を著しく超える対応の要求 | 降園後の行動の監視、家庭の事情への介入の要求 |
| c | 対応が著しく困難または不可能な要求 | クラス替えの要求、担任の変更や退職の要求、保育料の不合理な減免 |
| d | 相当性を欠く賠償要求 | けがや物の破損をめぐる、過大な請求 |
| e | 身体的攻撃 | — |
| f | 精神的攻撃 | 脅迫、中傷、土下座の強要 |
| g | 威圧的な言動 | 送迎時に大声で詰め寄る |
| h | 継続的・執拗な言動 | 同じ内容の連絡帳・電話が繰り返される |
| i | 拘束的な言動 | 長時間の居座り、勤務時間外の訪問の強要 |
よくある3つの場面——その場で、どうするか
類型を並べても、送迎の列の中では使えません。園で実際に起きる3つで、考えてみます。
場面1 降園時、玄関先で大声で詰め寄られる
| どの類型か | g(威圧的な言動)。ほかの保護者と子どもが見ている場です |
|---|---|
| その場で | 場所を変える。「お話を伺いますので、こちらへ」と別室へ。一人で入らない |
| やらないこと | その場で結論を出す。謝ってしまう。言い返す |
| 残すこと | 日時・場所・対応者・内容。その日のうちに、聞いた職員が書く |
園でいちばん多い形です。そして、1回目は苦情として受け止めるべき場面でもあります。別室で話を聞くことは、カスハラ対策であると同時に、運営基準でいう苦情への対応でもあります。二つの義務は、同じ行動で果たせます。
場面2 連絡帳に毎日、同じ要求が書かれる
| どの類型か | hまたはc。継続的・執拗な言動、あるいは対応が著しく困難な要求(担任の変更など) |
|---|---|
| 見るところ | 一度きちんと回答したか。回答したうえで繰り返されているかどうかで、見え方が変わります |
| その場で | 担任一人で返さない。園としての回答を、園長名で一度出す |
| 残すこと | 連絡帳は複写を取る。返した回答も残す |
「一度きちんと回答したか」が、分かれ目です。園が答えていないのに繰り返されているなら、それは苦情が解決していないだけです。答えたうえでなお繰り返されるときに、線を越えます。記録は、そのために取ります。
場面3 勤務時間外に、職員の携帯やSNSへ
| どの類型か | iまたはh。ガイドラインは電話やSNSも対象としています |
|---|---|
| 先にやること | 職員の個人の連絡先を、保護者に渡さない。園の番号に一本化する |
| その場で | 返信しない。翌朝、園長に見せる |
| 残すこと | 画面の保存。消さない |
これは、起きる前にほとんど防げる種類のものです。連絡網や行事の連絡で、職員の個人の番号が渡っている園は少なくありません。一度渡ると、戻せません。
やることは6つ、起きたあとは3段階
平時にやっておく6つ
- 方針の明確化と周知・啓発
- 相談体制の整備
- 事案発生後の、迅速・適切な対応
- 実効性を確保するための措置——とくに悪質な事案への対処方法を、あらかじめ決めておくこと
- あわせて講ずべき措置——不利益取扱いの禁止、プライバシーの保護
- 他の事業主の措置への協力
4つめが抜けがちです。「悪質な事案が起きたら、誰が出て、どこで弁護士を呼ぶか」を、起きる前に決めておくこと。ガイドラインは、東京都の例として「1〜2回目は2人以上の教職員で対応、3回目から管理職が中心となって弁護士に相談、4〜5回目から弁護士や心理士が同席」という段階的な対応を紹介しています。
起きたあとの3段階
| STEP 1 | 迅速かつ正確な事実確認 |
|---|---|
| STEP 2 | 被害を受けた職員に対する配慮のための措置 |
| STEP 3 | 再発防止に向けた措置 |
STEP 2を飛ばさないでください。園では、対応した職員がそのまま次の日も同じ保護者と顔を合わせます。担当を替える、送迎の時間だけ別の職員が出る、園長が同席する。配慮は、具体的な段取りのことです。
身構えなくて大丈夫です。2つ、申し上げておきます
相談窓口は、新しく作らなくて構いません。園には、運営基準でもともと苦情受付窓口があります。そこに「職員が受けた言動についての相談も扱う」と足して、職員に周知すれば足ります。保護者向けの窓口と、職員向けの窓口を、同じ人が兼ねても差し支えありません。
就業規則も、必ずしも作り直す必要はありません。求められているのは、方針を明確にして周知することです。職員会議で伝え、職員室に貼り、園だよりに載せる。この記事の下に置いた1枚は、その「貼る」に使えます。
職員室に貼る1枚を作りました(無料・ダウンロード)
保護者向けの周知には、文部科学省のリーフレットが使えます。「保護者・地域住民の皆様へ——学校とのより良い関係構築にご協力ください」。園だよりやホームページでの周知に、そのままお使いください。
足りないのは、職員の側です。その場で「何回目か」「誰を呼ぶか」が分からないと、若い職員が一人で抱えます。職員室に貼る1枚を作りました。
▼ ダウンロード(無料・会員登録不要)
保護者対応の段階表(職員室用・A4・PDF)
- 何回目に、誰が出るか——1〜2回目/3回目/4回目以降
- その場でやること・やらないこと
- 記録に書く6項目——日時・場所・対応者・相手・内容・職員の状態
- 該当しないもの——合理的配慮の求めは、これに当たりません
- 園名と相談窓口の記入欄
今日から着手したい、5つのこと
- 段階表に、園名と回数と担当を書き入れて、職員室に貼る
- いまの苦情受付窓口に、一行足す——「保護者等からの言動についての相談も受け付けます」。新しく作る必要はありません
- 苦情の記録の保存を確かめる——完結の日から5年です
- 文部科学省のリーフレットを、園だよりかホームページに載せる
- 職員会議で、cの類型を読み合わせる——「担任を替えてほしい」をどこまで受けるか、園として揃えておく
当事務所にできること
- 園の方針づくりと周知の文面——園だより・重要事項説明書・ホームページ
- 相談窓口と記録様式の整備(社会保険労務士として)
- 就業規則への位置づけ——必要な場合のみ。多くの園では不要です
- 段階表の、園に合わせた作り替え
- 起きた事案の整理——苦情なのか、線を越えたのか
- 運営基準の苦情処理との整合——指導監査で見られる部分です(行政書士として)
千葉県松戸市を中心に、東葛エリアの幼稚園・認定こども園の皆様のお手伝いをしております。行政書士と社会保険労務士を兼ねておりますので、「職員を守る話」と「運営基準の話」を一度にご相談いただけます。
あわせてお読みください








参考にした資料
- 文部科学省「学校と保護者・地域住民等とのより良い関係構築のためのガイドライン——保護者等の社会通念上許容される範囲を超えた言動への対応指針」(令和8年8月)
- 文部科学省「保護者・地域住民の皆様へ——学校とのより良い関係構築にご協力ください」
- こども家庭庁成育局保育政策課・成育基盤企画課「保育現場におけるハラスメント対策について」(事務連絡/令和8年3月25日)
- こども家庭庁「保育現場におけるハラスメント防止対策の推進について」(第14回子ども・子育て支援等分科会 資料4/令和8年3月18日)
- 厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」
- 松戸市「特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営に関する基準を定める条例」(松戸市子ども・子育て会議資料)
- こども家庭庁「公定価格」(保育政策関係資料)——管理費に苦情解決費
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律/学校教育法/就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律
最終更新日:2026年10月27日 / 本記事は令和8年10月27日時点で公表されている資料にもとづいています。文部科学省のガイドラインが幼稚園・認定こども園を対象に含むかどうかは、当方では確認できていません。対象を限定する記述も、含むとする記述も見当たらない、という意味です。運営基準の苦情処理の条番号、こども家庭庁のガイドラインの公表時期、補助事業(巡回支援等)が幼稚園・認定こども園にも使えるかどうかも、いずれも未確認です。こども家庭庁のガイドラインが出ましたら、本記事を見直します。段階表は当事務所が作成したもので、公的機関が定めた様式ではありません。
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